猫伝染性腹膜炎の抗ウイルス剤であるGS-441524は長く続いている製薬会社によるとFIPの再発率は5~10%程とされています。再発する場合の多くは粘り強いFIPウイルスという特性もありますが、治療薬の品質も重要な再発原因の一つです。低品質のFIPV抗ウイルス剤は濃度が不安定な時があり、不十分な投薬量によって病気の悪化や再発、耐性の発生と深刻な結果をもたらすことがあります。良い治療薬を使用したからと100%再発は起こらないということは言い切れません。
それは再発はFIP治療薬の品質の他にFIP治療のルールに基づいた治療を行っているかにも高い関連性があるためです。
Table of Contents
Toggle治療の早期終了
FIP再発率を高める行動①
- FIP治療の早期終了を行うこと
GS-441524を使用し猫伝染性腹膜炎の治療過程を開拓したDr.Pedersenは臨床試験を通して治療薬の容量と治療期間を研究しました。FIP治療は最低84日間連続で行うという結論を出しました。GS-441524の主要販売会社またはDr.Pedersenの推奨治療ガイドラインに沿って治療をおこなうことで再発の危険性を大幅に減らすことができます。
一部の方々はFIP治療6~8週目頃に治療の終了が可能と言っていますが、本来12週の治療過程を早期終了することは一般的には賭けであるとされています。早期終了時にウイルスが体内に残っている可能性があるためです。GS-441524はウイルスを排除するものではなく、ウイルスの増殖を抑制するものです。FIPウイルスが猫ちゃんの体内から無くなるかは、その子の免疫システムに依存しており治療期間が不十分すなわち免疫システムの再構築の時間が不十分と言えます。そのため初期終了を行うことは再発の危険性が高く、一緒に治療を行うご家族には可能な限り12週間の治療を行うようにお伝えしています。
獣医師の先生とよく相談の上、血液検査やその他の検査で何の問題もなかった場合約2カ月で猫伝染性腹膜炎治療を終了することができますが、再発した場合は再び84日間の投薬を行わないといけません。再発の場合の治療は薬剤耐性が伴っている可能性が高く、治療がより難しくなります。残り1カ月ほどで終わるはずだった治療期間が長くなり、また決して安くはないFIP治療薬を購入しなくてはいけなくなります。
Dr.Pedersenによると薬剤耐性を持っているFIPVが最も恐れるものと言及しています。
任意での薬の減量
FIP再発率を高める行動②
- 任意で投与量を減らすこと
「猫ちゃんの状態が良くなったから投与量を減らそうと思っています」と相談を頂きますが、体重あたりの投与量を減らすことは致命的な判断になりかねません。
6mg/kgで症状が良くなっていた子が4mg/kgに減量した場合、体重あたり6mgで抑えられていたウイルスの増殖が、4mgへの減量により再増殖する可能性があります。同時に耐性を持つウイルスが発生やより深刻な症状(眼球症状や神経症状)になる可能性もあります。結果的に6mg/kgで治療ができていた子がより高容量の10mg/kgに増量が必要になり、治療費もより高くなってしまいます。
参考までにDr.Pedersenの2018年の臨床研究当時4mg/kgの投与量で80%の治療率が確認でき、その後各国の治療現場や臨床研究により6mg/kgにまで調節した結果、統計上90%以上の治療率に達しました。
不足した投与量
FIP再発率を高める行動③
- 投与量が不足していること
多くの研究や治療を通して最もFIPの治療に効果的な投与量と判断されたのは以下の容量です。
基本ウェット、ドライタイプ:6mg/kg
眼球性:最低 8mg/kg
神経性:10mg/kg
脳神経にウイルスの影響が見られる猫ちゃんは、バランスがとれない、足に力が入らない、痙攣、手足の制御が不可能、激しいグルーミング等の行動が見られます。この場合の投与量は10mg/kgとされていますが、神経症状が抑えられないまたは酷くなる場合は12mg、15mgと増量が必要になります。脳神経に到達したウイルスを死滅させるには、薬を脳にまで届けられるよう十分な量が必要になるため、慎重に様子を見て投与量を決定させる必要があります。
投与量が基準より少ない場合でも、食欲が増し、より活発になる様子を見ることができる子もいますが、これはその子にとって体内のウイルスを抑制できる十分な投与量であるからです。
不正確な投与量
FIP再発率を高める行動④
- 投与量が不正確であること
FIPの治療を行う際に大切なことは治療中の血中濃度を一定にさせることです。当然に体重が増加するとともに薬の量が増えることになります。しかし体重チェックを行わず体重が増えていても継続的に同じ容量を投与していた場合、体重あたりの投与量が減ってしまいます。
毎日猫ちゃんの正確な体重を測定できるようにデジタル体重計(動物用や赤ちゃん用)を準備することを推奨しています。
投与不足と不規則な投薬時間
FIP再発率を高める行動⑤
- 治療薬の投与不足と不規則な投薬時間
投薬後に注射液の漏れや経口薬の吐き出し等が発見された場合は直ちに体内に入らなかった分だけ再投薬を行ってください。少量でも再投薬を行わなかったり、不規則に投薬を行ったりすることで、「塵も積もれば山となる」で後々は大きな投与量不足となります。
食欲を無視すること
FIP再発率を高める行動⑥
- ご飯を食べないことを無視すること
自分から食べるということに重点を置きがちですが、ほんの少量しか食べられない子には生きていく上での必要カロリーが不足している場合があり、FIPウイルスと戦うための免疫力が弱まってしまいます。必要カロリーを摂取できない場合は強制給餌の検討を推奨しています。
UC Davisのある報告書によると体重の増加がFIPから回復しているかの客観的な指標の一つとしています。GS製剤による12週間の治療終了後の猫ちゃんの体重増加は約20%~120%です。幼い子ほど治療期間の体重の増加幅が大きいです。
Dr.Pedersenは体重の増加が治療経過の良好性を示していると強調しており、体重の増加が著しい場合や停滞していると、投与量や栄養の不足の可能性があり注意が必要としています。
FIP治療中の必要な処置を行わない
FIP再発率を高める行動⑦
- FIP治療中の必要な処置を行わないこと
FIPと戦うためには猫ちゃんの免疫力、血液、肝臓等が健康でなければいけません。しかし治療を行うGS-441524はFIPウイルスを死滅させる訳ではなく、ウイルスの増殖を抑制する薬剤です。そのためウイルスを死滅させるにはウイルスと戦うことができる免疫力が大切になり、免疫力が弱いと回復速度が遅くなる可能性があります。
FIPの知識、経験豊かな人に相談を行わない
FIP再発率を高める行動⑧
- FIPの知識や経験豊かな人に相談を行わないこと
猫伝染性腹膜炎の治療はGS-441524をはじめとした治療薬が手に入れられれば治療が十分に可能となってきました。しかしFIPについて少ない情報を持っているところからアドバイスを貰うことで、治療状況の把握、症状の改善や回復速度が遅い場合の対処等の判断が遅くなったり間違った判断を下す場合があります。
様々な理由でFIPの専門医の下で治療が難しい時は、FIPについて理解度が高い相談相手を見つけておくことが治療を成功させることに繋がります。
FIPVが脳に侵入した場合
FIP再発率を高める行動⑨
- FIPウイルスが脳に侵入した時の対処
FIPウイルスは致死率ほぼ100%と言われる恐ろしいウイルスとされていました。それにも関わらず治療を行う方々が今までに上げた8つの再発を招く要因を守ることで再発を防ぐことができますが、再発しないことを保証するものではありません。
特に猫伝染性腹膜炎ウイルスが脳に侵入しているが、少数であるために神経学的症状が無かったり軽微な場合は経験豊富な先生でも発見が難しいことがあります。例えば、稀に歩いては倒れる様子が見られたり、強く体をひねるような様子が見られた場合、FIPによる神経学的症状と識別されるのが難しいことが多いです。もしも薬の投与量が不足している状況が続いている場合、FIPVが脳に侵入し増殖を行う機会を与えていることになります。
もし普段と違う行動が見られた場合はかなり慎重に普段の様子を観察・記録することが大切です。この様子を動物病院の先生やFIP知識がある方に見てもらうことで適切な処置に繋がります。たとえ注意深く様子を見ていても神経学的症状を見分けることができなかったり、脳にまでウイルスが侵入していても症状が現れない場合が実際にあります。
再発したからと悲観的に考える必要はありません。ある猫ちゃんは2,3回の再発の末、良い結果で治療を終わらすことができました。FIPの世界で戦うということに勝利はなく、あなたが今できることは死(猫伝染性腹膜炎)を目の前にして冷静かつ厳しくいることです。
参考・引用:香港FIP治療グループ「FIP治療で再発率を高める9つの重要な要因」