FIP in aged cats (2021.02)
著者:Niels C. Pedersen DVM PhD
発行日:February 11, 2021
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年齢とFIP発生率の関係は様々な文献で論議されてきて、研究題材とされています[1]
FIP症例の29%は0.5歳未満、50%は1歳未満、80%は3歳未満、96%は8歳未満で発生します(表10)。発病率は7~11歳の間はかなり低いです。しかし1976年アメリカで行われた研究[1]と、2021年にヨーロッパで行われた研究[表1]の少なくとも2つの研究の結果では、高齢猫における発症率は3%と増加していることが確認されました。この投稿の目的は、この増加に対する理由と高齢猫におけるFIPの診断と成功的な治療に及ぼす影響について論議するためのものです。
[表1] 2019-2021年ヨーロッパでGS-441524で治療された猫から得たデーターを基にした、FIP診断当時の猫の年齢
FIPへの暴露の原因
FIPはFECVの暴露の結果[3]であり、これは高齢の猫にも同様です。しかしこのような暴露と関連するいくつかの特殊な状況があります。
一つ目のシナリオは子猫に起こること、つまり複数の子猫にさらされることと似ています。しかし高齢猫が子猫とペアになり比較的孤立された状態で一緒に暮らすことが一般的です。この場合、ペアの猫がもう一方の猫より先に死ぬ可能性が高いので、その猫にはパートナーがいないためまた別の興味深いシナリオに繋がります。新しいパートナー、ほとんどの子猫は救助団体や保護所やキャッテリーから来ます。このような場所から来た子猫がFECVを排出している可能性は高いです。猫と猫の接触を必要としない二つ目のFECV暴露源が存在します。FECVは人の服に付着し、猫から猫へと運ばれることが知られています。FECVは特に若い猫や子猫から出る糞便に高濃度に存在し、数日間生存可能です。したがって、飼い主が家の外で幼い猫と接触することもFECV感染の原因となります。
高齢猫におけるFIPの特異的な側面
高齢猫へのGS-441524治療の経験から3つの懸念事項が考えられます。
1)FIPを他の疾患と誤って診断する
2)高齢猫によくある、1つ以上の他の疾患とFIPが併存する
3)免疫体系が弱い状況でのFIPの治療
FIPの誤診
GS-441524で治療した猫を観察した結果、年老いた猫のFIPは誤診が起こりやすく、治療が難しいと言うことが示されています。高齢猫におけるFIPの誤診は確率で簡単に説明できます。
例えばある研究で、2歳未満の猫ではFIPが脊髄疾患の最も一般的な単一の原因であることが明らかになった一方で、2~8歳の年齢層では癌が最も一般的な単一の疾患でした[4]。したがって、若い猫の脊髄疾患に対する最初に考慮すべきことはFIPであり、高齢猫に対する最初に考慮すべきことは癌です。
多くのタイプの非レトロウイルス誘発癌の発症率は約7~9歳から増加し、高齢猫の死亡の約1/3を占めしています。慢性腎疾患もほぼ同じ年齢から臨床的に現れ始め高齢猫の死亡の1/3程度を占めます。高齢猫の残りの死亡原因は糖尿病と甲状腺機能亢進症、そして数多くの筋骨格系、心血管系、神経系、および胃腸系の疾患があります。同様に高齢の猫は、次第に血清グロブリン数値の上昇と相対的な免疫欠乏および自己免疫に関連する病気として現れる免疫機能の低下を示す傾向にあります。このような加齢による臨床症状および血液検査結果はしばしばFIPの兆候と似ていますが、高齢の猫がFIPに罹患する確率は他の疾患よりもはるかに低いです。
逆にFIPに適合する臨床および検査所見を有する若い猫がFIPに罹患している確率は、同様の所見を有する高齢猫がFIPに罹患している確率よりもはるかに高いです。
二次疾患としてのFIP
二つ目のシナリオは、FIPを発症した高齢猫が他の深刻な病気を患っている状態の時によく見られます。慢性腎不全はこれらの基礎疾患の中でも最も一般的であり、リンパ腫のような癌はそれほど一般的ではありません。年齢が高い猫はまた免疫システムの老化にともない相対的に免疫不全状態によりFIPのもう一つの素因となります。
FIP加齢により免疫不全
免疫システムは猫を含むすべての動物種において老化による悪影響を受けやすいです[5,6]。高齢猫における免疫機能の低下はB細胞およびT細胞リンパ球集団の変化と免疫グロブリン増加量との関係があります。そのため老猫は予想より高い血清タンパクおよびグロブリン数値を持っていることがあります。弱年齢の猫における血清総タンパク質とグロブリンの数値の増加はFIPの兆候として見られることが多い反面、高齢猫における診断的価値はあまりありません。
老化による相対的な免疫不全は、新しい感染と戦うことをより難しくし、何十年間も体内に潜在していた古い感染を抑制することを難しくします。老化が新しい感染症や潜伏感染症に対する抵抗力に及ぼす影響について最もよく研究された例は、人間から出されたことです。糖尿病や慢性肺疾患となどの合併症を持つ高齢者のCOVID-19による死亡は加齢と慢性変性疾患が感染因子に対する耐性に及ぼす影響を見せる最もよい例です。結核は再活性化される前に肺リンパ節に何十年もの間潜伏していると知られています。したがって結核は高齢者施設に入所している人やサイトカイン抑制剤で自己免疫障害で治療を受けているにとにとっては特に問題となります。
またFIPは一部の猫において臨床的に発生する前に数カ月から実際に数年間、症状や兆候が表れない状態で存在する可能性があるとされています。また高齢猫になった時にFIPが発病する前、ずっとアパートの出完全に隔離されて生活していた事例もあります。
結論
高齢の猫のFIPは幸いにも珍しいですが、診断および治療に影響を及ぼす独特の特徴を持っています。FIPの診断を確実にし、FIPの素因やFIPの成功的な治療を複雑にする他の健康状態を特定するために、特別な注意を払う必要があります。これは高齢の猫にとっては診断へのより大きな課題となり、この年代に共通する他の変性疾患によって治療がより困難になります。
FIPの治療率は、若い猫の場合80%以上ですが、高齢猫ではそれほど高くありません。