FIP治療情報

コロナウイルス予防のためGS-441524の使用は不適切(2020.01)

【猫でんちの要約】
‐ GS-441524は猫伝染性腹膜炎を予防する薬剤ではない
‐ 意図しない治療剤の使用は、治療剤への耐性を招く可能性がありFIP治療が難しくなることもある

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Inappropriate use of GS-441524 in an attempt to eliminate Feline Enteric Coronavirus (FECV) for healthy cats
健康な猫からFECV(Feline Enteric Coronavirus)を除去するためGS-441524を使用することは不適切
著者:Niels C. Pedersen, DVM PhD Distinguished Professor Emeritus University of California, Davis
発行日:2020年1月


ブラックマーケットでGS-441524を販売している中国の会社Mutianより1日またはそれ以上の期間の間経口薬を使用すれば、健康な猫たちに排泄物を通したFeline Emeritus Coronavirus(以下、FECV)の感染を予防すると広告していました。一部の獣医学研究者はそのようなアプローチを擁護しています。その根拠はFIPの原因である突然変異ウイルス(FIPV)の出現を防ぎFIPを予防するということです。こうしたアプローチは始めは魅力的に感じますが、猫にとってはGS-441524を大きく使い間違えることになります。これまでGS-441524はFIPで苦しむ猫が治療にのみ使用することを推奨されていました。このアプローチ方法への問題は多くあります。

Mutianは広告でFECVがGS-441524の経口剤を通して簡単に除去できると示していました。しかしそのアプローチに繋がった研究があったとしても、言及はしていません。猫の個体群の40%以上になり得る健康な猫による永久的なFECVの排出が永久に治療ができるかどうかを証明するものはありません。自然に発生するFECV感染は、子猫で最初に発生し、顕著な疾病兆候を伴うことはありません。感染は数週間、数カ月、場合によっては無期限に続きますが、ほとんどの場合は最終的に免疫力がつくと最終的にFECVの排泄は無くなります。しかし一度免疫ができて排出が止まると、抗体レベルは低下し、猫は再び感染しやすくなります。このような1次感染と2次感染のサイクルは、一生の間を通して多くの猫で起こります。GS-441524の治療によって、自然界で見られるよりも永続的な免疫を得る可能性はかなり低いです。しかしFECVは環境下では短命であり、人々の服、トイレの砂、毛、その他の排泄物が簡単付着しなければ、結果的には重要ではありません。FECVは体外では最長2週間生存し、飛散物を通して感染することも記録されています。そのためFECVの排出者が治癒したとしてもウイルスは簡単に猫の集団に戻ってきます。このことはFECVの感染を予防するために母猫を隔離させ、子猫を早期離乳させた経験からも証明されています。

FECV感染について、現在の知識がこのアプローチに大きく疑問を示しています。今後健康な猫にGS-441524やその他の安全で効果的な抗ウイルス剤でFECVの治療をしないことには、同様に、そしてより説得力のある理由があります。FECVの排出を1回または短期間の治療で止められるとは考え難く、長期間の治療が必要であることは間違いありません。これはキャッテリー、シェルター、保健所や救助団体にいる多くの猫に適用すると、かなりの額が必要になるでしょう。

FIP予防のためにこのようなアプローチ方法に抵抗する最大の理由は、精力的に行われた検討や発表された実験室での研究によって、予防が可能であることを証明したとしても、薬物耐性の問題があるためです。自然に発症したFIPの中にはGS-441524に耐性があるFIPVに感染している猫がいることが既に分かっています。31匹の猫を対象に行った実地検査で、1匹が強い耐性を持つウイルスに感染したことが明らかになりました。また、細胞陪食で耐性を誘導することが容易であることを確認する実験室研究もあります。HIV/AIDSやC型肝炎ウイルス疾患に感染した人の間でも薬物耐性はよく知られています。ウイルスを含むどのような微生物に対しても薬物耐性を獲得する最も早い方法は、薬剤を必要としない場所で薬剤を乱用することです。抗菌剤の耐性の問題は動物の細菌や人間のウイルスの経験から十分に証明されています。GS-441524と同様の薬剤を健康な猫の集団に広く使用されると、部分的あるいは完全に薬物耐性を持つFECVの変種が選択されるということは疑いの余地もありません。この耐性はFECVのFIP誘発突然変異株(FIPV)においても確認でき、ますます多くのFIPの猫にGS-441524を使用することが難しくなります。残念ながら、獣医学は単に格闘された薬剤耐性を避けるためのより多くの薬剤に対する発見、テスト、承認を得るためのヒトの医学のような資源や収益、インセンティブもありません。

著者は猫の家族や研究者に、安全で効果的な抗ウイルス薬をこのように使用することを拒否するよう強く願っています。適切な科学や常識、そしてFIPで苦しむ猫の家族の心配よりも利益を優先する貪欲な製薬メーカーについては、何もできません。「できるからと言って、すべきとは限らない」という良く言われている言葉があります。 ーN.C. Pedersen


原文リンク:Center for Companion Animal Health (CCAH) – General Feline Infectious Peritonitis Resources (ucdavis.edu)

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