まず初めに、多くの方が聞いたことがあるだろう「猫コロナ」と言われるものは、弱毒性の猫腸コロナウイルス(FECV)を思い浮かべる方が多いかと思います。
実は猫コロナには、弱毒性の猫腸コロナウイルス(FECV)と強毒性の猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)の2つに分けることができ、図で表してみるとこのようになります。
猫コロナウイルス(FCoV)
├ 猫腸コロナウイルス(FECV)
└ 猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)
では、猫腸コロナウイルスと猫伝染性腹膜炎ウイルスに感染した時にどのような違いがあるのか、簡単な言葉で説明してみようと思います。
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Toggle猫腸コロナウイルス(FECV)
猫腸コロナウイルスについて
猫腸コロナウイルス(Feline Enteric Corona Virus : FECV)は猫ちゃんの腸管(=お腹)にある細胞を攻撃の対象としているウイルスです。腸管の中にある細胞にこのウイルスが入り込み複製し、ウイルスに感染していない腸管内の細胞に感染させています。
このウイルスは猫ちゃんの世界ではありふれたウイルスで、70~80%が感染したことがあるとされています。症状はウイルスが腸内の細胞に感染するため、数日程度で落ち着く下痢や軽い嘔吐等の腸炎のような症状が見られますが、ほとんどの場合は無症状で、猫腸コロナウイルスの感染が落ち着くことがほとんどです。
猫腸コロナウイルスの感染の原因
猫腸コロナウイルス(FECV)を保有している猫ちゃんがいる場合は、他の猫ちゃんに簡単に感染してしまいます。そのため1匹で暮らしている子よりも複数で暮らしている子、外などで猫ちゃん同士の交流が多い子の方が、FECVに感染する確率が高くなります。
感染する主な原因は、このウイルスを持っている子の糞や嘔吐物を他の子が誤って摂取してしまうことです。
ウイルスが含まれている糞を他の子が踏みつけ被毛についてしまいます。ここまでは問題ありませんが、それを誤って舐めたり、その舐めた唾液を他の子が舐めることによって、猫腸コロナウイルスに感染する可能性が発生します。例えば、母猫がウイルスを持っていれば子猫にグルーミングを行う、多頭飼いの環境ではトイレの共有によって感染が広がります。
猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)
猫伝染性腹膜炎ウイルスについて
猫伝染性腹膜炎ウイルス(Feline Infections Pertitonitis Virus : FIPV)は、猫腸コロナウイルスが腸管内の細胞でウイルスの複製時に、何らかの原因によって起きる複製エラー(=突然変異)によって作られるとされているウイルスです。そしてこの感染症による病気が猫伝染性腹膜炎です。突然変異は一定の確率・ランダムで起きますが、詳しい原因はまだ明らかになっていません。
猫ちゃんの年齢にかかわらず猫伝染性腹膜炎は発症しますが、特に子猫等の免疫力が弱いほど、体内でウイルスの複製が活発に行われるため、ほとんどの場合は幼い子の間でFIPが多く発症しています。
猫伝染性腹膜炎ウイルスは血液内に存在するマクロファージという免疫細胞を攻撃のターゲットとしているウイルスです。そのため、血液が多く流れている臓器(肺、肝臓等の腹部)に症状が現れる場合がほとんどです。
猫伝染性腹膜炎の危険性
FIPVに感染した場合、現在は認められた治療方法はなく致死性の病原体とされています。猫伝染性腹膜炎(FIP)を発症した場合、およそ96%の猫ちゃんが数日~数カ月の期間で死亡というのが現実です。43匹を対象として調査研究では、FIP診断後の平均生存期間がたったの9日だったと報告されています。
この報告からもFIPウイルスの病原性の強さや進行の速度の速さが分かるかと思います。
▶▶「FIP治療中に隔離は必要?」
▶▶「FIPは伝染する病気?」
FIP治療の救世主
しかし2019年に新薬「GS-441524」によるFIP治療が有効的であるという論文が発表されました。論文によるとGS-441524による投薬治療を行った31匹のうち、論文作成時には24匹が生存し健康的に過ごしているという結果が出ました。
この論文発表以降、多くの国で臨床研究やFIP治療コミュニティーが作られ交流が広まり現在では投薬方法が一般化されている治療方法が明確な薬剤となっています。
その他にもモルヌピラビルやレムデシビルを猫伝染性腹膜炎治療に使用する場合もありますが、この2つの薬剤成分についてのお話しはまた今度にしようかと思います。