FIPV(FIPウイルス、猫伝染性腹膜炎ウイルス)は理論的には伝染性はありません。
「理論的には伝染性はありません」とお伝えしましたが、様々なケースを見てきた経験上、2,000匹のFIP猫ちゃんから、ウイルスが伝染したケースは約1%の20匹程度という割合です。このほとんどの場合が母子感染、FIP変異ウイルスに弱い両親から生まれた兄弟猫ちゃんです。
FIPVには理論的には伝染性はないと言われる理由を2つ「FCoVとFIPVの伝染の違い」「ウイルスと致死率とFIPV」についてお話ししようと思います。
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ToggleFCoVとFIPVの伝染の違い
血管内の免疫細胞(大食細胞)に存在するFIPウイルスが体の外に出て、他の猫ちゃんに移動し血管内の免疫細胞(大食細胞)に入り込むことが難しいためです。
FCoV(猫腸コロナウイルス)の伝染
FIPウイルスに変異する前のFCoVは腸内の上皮細胞を目標にして攻撃・複製しているウイルスのため、腸内で発生したウイルスが便に出てきます。そのため、トイレの共有等によって何かのタイミングで手足についたFCoVがグルーミング等によってウイルスが他の猫に移ります。
FIPV(猫伝染性腹膜炎ウイルス)の伝染
FIPV(猫伝染性腹膜炎ウイルス)は血液内に存在する免疫細胞(大食細胞)に入り込み攻撃・増殖します。この免疫細胞は体の中の血管を通り移動するため、ウイルスが増殖・複製されても体の外に出ることはなく、ウイルスが血管内や特に血液量が多い臓器内で悪さを与えます。そのため、前述のFCoVのように方らの外に出ることはかなり少ないです。
しかし、FIPVが体の外に出ないということは0ではありません。
例えば、肺までウイルスが移動した場合は胸水が見られることが多いです。胸水を通して破壊された血管からウイルスが出ることにより、大きく咳をしたり鼻水がある場合はそこからウイルスが体外に出る場合があります。
また、腸炎により腹水や出血がある場合はウイルスが便に混ざって排出される可能性もあります。
上記のようにFIP治療中の体内から体外に排出される可能性もありますが、FIPVが同居猫ちゃんに移動できたとしても、まだウイルスが増殖する段階ではありません。
FIPVが増殖するには血管内の免疫細胞と出会うことでウイルスが増殖することが可能なためです。またほとんどの場合、FIPVが鼻や目に入り込んだとしても血管内に入り込むまでに健康な猫ちゃんの体の中ではウイルスは死滅します。
ウイルスと致死率とFIPV
致死率が高いウイルスほど、ほかのところに感染させる前に宿主が死んでしまうため、感染は大規模になりにくいです。そのため大部分のウイルスは宿主が死なない程度の弱さまで弱まりウイルスを広めていきます。
しかしFIPVは少し特殊で外の世界に存在しているウイルスではなく、FECVの変異であり、FIPVに変異した瞬間からその子の免疫機能をダメにするため、体内でFIPV発生後すぐに宿主を死に追いやります。
ここでこういう疑問を浮かべる方がいらっしゃるかと思います。
「FIPになってもすぐに亡くならない子もいるのでは?」
その理由は猫ちゃんの個体によって免疫機能が違うためです。詳しくは下記の記事をご覧ください。
またFIPの治療中であれば治療薬によりウイルスの増殖を抑えられるため、他の同居猫ちゃんに伝染するほどのウイルスが治療中の子の体内で複製されることはほとんどありません。