
海外の状況を含めた世界的な猫伝染性腹膜炎の治療状況とそれに伴ういくつかの情報を整理していこうと思っています。「FIP治療の始まりの歴史と今後のFIP治療」に引き続き、FIP治療剤別の特徴を簡単に治療剤ごとに記事にしていきます。
前回のブログの内容を読んでないよという方は下記よりご覧ください^^
>>> FIP治療の始まりの歴史と今後の治療+日本のFIP治療への思い
>>> GC376, GS-441524の歴史と特徴 ←
>>> レムデシビルの歴史と特徴
>>> モルヌピラビル(EIDD-2801)の歴史と特徴
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ToggleFIP治療薬の始まり
残念ながら今現在も猫伝染性腹膜炎を治療する正式な薬は日本には存在していません。
私たち人間のために開発された抗ウイルス剤の中からFIPに適用できる抗ウイルス剤や成分を活用しており、FIPへの治療には主にコロナウイルス系のレトロウイルス治療を基準に様々な治療法が試されています。
FIP治療へ有効ではないかと最初に臨床研究と治療に試されたのはGC376とGS-441524の2種類があり、GS-441524によるFIP治療が始まった頃より広まったコロナウイルス感染症で使用された、レムデシビルやモルヌピラビルはヒト用の医薬品として認められているため、適用外使用で猫伝染性腹膜炎の使用をする試みがありました。
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>>> モルヌピラビル(EIDD-2801)の歴史と特徴
FIP治療剤 GS-441524
最初に試された臨床研究と治療には、GC376とGS-441524の2種類がありました。
FIP治療薬:GC376
GC376は特に幼い成長中の子猫に重篤な副作用がある可能性があり、完治率や再発率の面でFIP治療への効果が十分でないことが示されたため、現在の治療では使用されていません。
そのため簡単な紹介のみを行い、GS-441524の説明をしていきます!
FIP治療薬:GS-441524
GS-441524の研究
GC376の次に進められたGS-441524という成分は、ギリアドサイエンス社で研究中の候補物質でした。このGS-441524は以降コロナパンデミックで使用される薬レムでシビルとしてこの成分が採用されました。
UC Davis校のペダーセン博士がFIP治療に使えるいくつかの成分の候補の中でGS-441524を挙げたことで、臨床研究が進められ、最終的に猫伝染性腹膜炎治療に高い効果が証明されました。
初期の臨床試験では、85~90%というほぼすべてのFIP猫ちゃんが完治することができていました。その後の追跡調査でも再発例はほとんどなく、再発した場合も投与量を増やすことで再発治療を終えることができました。その後2019年より世界中の大部分の動物病院やFIP治療コミュニティの間等で幅広く使用されてたくさんの猫ちゃんを救っています。そしてGS-441524は最も多く使用されかつ、信頼される薬剤となりました。
高い評価と低い副作用の発生率が立証されているにもかかわらず、ギリアドサイエンス社では動物用医薬品市場が限られており、より収益性の高い人間向けの抗ウイルス剤として使用するために、動物用医薬品用としてのGS-441524の発売やライセンスの提供を行わない方針をとりました。
GS-441524のブラックマーケットと製造メーカー
すでにGS-441524は猫伝染性腹膜炎治療において最適な治療剤として十分に検証されているにも関わらず、FIP猫ちゃんの家族や獣医師は認可された治療剤を手に入れることができずブラックマーケットに頼らざるを得なくなりました。2024年12月現在も日本では認可されているGS-441524製品が無いのが事実です。
2019~2020年のはじめ、中国の大手製薬会社や医薬品原料メーカーから良品質の製品が発売された時期であり、この時期には主にMutian(ムティアン)、Slayer(スレイヤー)、Rainman(レイマン)等のブランドがありました。
その後、様々な法的な問題のためすべてが封じられ、2020~2021年には零細製薬会社から大手製薬会社までがブラックマーケットに潜むようになりました。この時には20~30以上のブランドが乱立し、その中には品質の良くない商品も出回っていたことから、かなり混乱した状況に置かれていました。
FIP治療を行わないといけない家族にとっては本当につらい時期でした。GS-441524という唯一の治療方法がありながらも、競争が激しいため不安定な供給と猫伝染性腹膜炎の治療剤に含まれているGS-441524の含有量や品質などに多くの問題がある製品が販売されていました。このことは実際に多くの猫ちゃんが再発や治療中に症状が悪化するという状況に陥っていました。
GS-441524を使用したFIP治療
高い効果で知られているGS-441524ですが動物用としての承認を得られていないため、保護者である私たちが率先して治療を行わないといけない状況が続いています。世界各国でFIP治療コミュニティが誕生したことによって、FIPの治療剤の品質等の問題の提議、安定したFIP治療のガイドラインが出来ています。
これから猫伝染性腹膜炎治療を始めないといけないという方には、多くの選択肢が作られ、ガイドラインがあることは本当にありがたいことかと思います。