FIP治療情報

どうしてFIPにはドライタイプとウェットタイプが存在するのか

免疫には体液性免疫と細胞性免疫の2つが含まれています。
体液性免疫は体液中の抗体がウイルスや細菌を除去する過程に関わっている免疫です。一方で細胞性免疫は細胞が直接働いてウイルスや細菌を排除する免疫です。

FIPの猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)はマクロファージ(大食細胞)という細胞性免疫を攻撃するものです。そして猫ちゃんがこの細胞性免疫を十分に働かせられるかどうかが、FIPの症状の種類を決定するポイントとなります。

これからFIPに罹患した猫ちゃんがどのような免疫反応によって症状が出るのか、ウェットタイプとドライタイプに分けて説明していきます。

・体液性免疫:体液中の抗体が働いてウイルスや細菌を排除する免疫
・細胞性免疫:細胞が直接働いてウイルスや細菌を排除する免疫

ウェットタイプの猫伝染性腹膜炎は細胞性免疫システムが円滑に作動できない猫ちゃんに見られる免疫反応です。

体液性免疫に依存するため、FIPウイルスと戦うためのグロブリンが過剰に生成されます。このグロブリンは壊れた細胞や細菌そしてウイルスを殺す作用がありますが、FIPVによって破壊された細胞性免疫システムが以上に働き正常な免疫システムが崩壊し、未感染の正常な細胞まで攻撃します。

猫伝染性腹膜炎で亡くなった猫ちゃんを解剖すると、臓器の炎症や血管の破損、白血球や赤血球を除いた血漿(血液中の体液成分)の流出が確認されました。

ウェットタイプ特有の症状である腹水や胸水の原因は、グロブリンの増加によるアルブミンの減少で、浸透圧差から血管から体液が漏れ出します。また体液性免疫のグロブリンは血液中に含まれるタンパク質のため、特に大腸や肺などの血液の出入りが多い臓器にグロブリンも多く供給されます。大量のグロブリンによりFIPウイルスだけでなく、正常な細胞も攻撃され炎症が起こります。

ドライタイプの猫伝染性腹膜炎はある程度の細胞性免疫が働いている猫ちゃんに見られる免疫反応です。

猫ちゃんの体内では体液性免疫と細胞性免疫の2つの免疫機能が上手く動いている状態です。FIPウイルスが2種類の免疫によって制御されながら、じわじわと増殖していくので健康状態が悪化したり改善したりを繰り返しながら、感染がじわじわと広がっていきます。そのため、猫伝染性腹膜炎に感染しても1〜2年間生き延びる猫ちゃんもいますが、最終的にはFIPVは細胞性免疫のマクロファージを破壊することから、いずれはウェットタイプの症状が現れるとされています。

眼症状や神経症状はドライタイプの特徴的な症状の一つです。
これは眼や神経を保護されるための特別な毛細血管である血液脳関門や血液眼関門が存在しており、この関門のせいで眼や脳までウイルスが到着するまでの時間を長引かせます。ここでウェットタイプの免疫反応を示している猫ちゃんの場合、血液臓器関門を通過するまでの間に亡くなるケースがほとんどですが、ドライタイプのような免疫反応を見せている猫ちゃんの体内ではゆっくりと感染範囲が広がる結果が眼症状と神経症状です。

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